プロクシベースト・スライディングモード制御(PSMC) |
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PID位置制御・PD位置制御の正確さ・ロバストさ・シンプルさを失わずに,より安全な位置制御を実現できます.
ご興味のある方は,菊植()までお気軽にご連絡ください. |
PID方式・PD方式の位置制御は,非常な簡単な制御則でありながら,関節摩擦やロボットのリンク慣性の影響を「力ずく」で押さえ込むことができる極めて便利な制御側で,ロボット分野でも広く用いられています.しかしPID位置制御・PD位置制御は,大きな位置誤差が生じたときに,非常に大きな力が出たり,非常に大きな速度が出たりする可能性があります.たとえば,手先が何かに引っかかったとき,アクチュエータの電源が切れてから突然回復したとき,あるいは,プログラムのエラーやバグなどで誤った目標軌道が与えられたときなど,危険な動作をする可能性があります.
プロクシベースト・スライディングモード制御(PSMC,Proxy-Based Sliding Mode Control)は,安全性を高めた位置制御方法です.PID方式・PD方式の位置制御と同等に正確な位置制御が可能で,かつ,PID方式・PD方式よりも安全です.PSMCを用いると,通常動作時の正確な位置制御性能は損なわれずに,異常発生時に緩やかで滑らかで過減衰な(オーバーシュートを起こさない)復帰動作が実現します.
PID制御では,目標位置が急激に変化すると振動・オーバーシュートが生じます.PSMCでは穏やかに収束します. | ||
PID制御では,大きな外乱のあとに急激に復帰動作をして振動・オーバーシュートが生じます.PSMCでは穏やかに復帰します. | ||
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PID制御でも微分ゲインを大きくすれば動作は穏やかになりますが,エンコーダの量子化ノイズの影響を受けて振動が発生したり,通常動作時の追従性能が劣化したりします.PSMCは,
- 通常動作時の正確で速応性の高い制御性能
- 異常発生時(異常発生後)の緩やかで安全な動作
たとえば,こんな応用も可能です.
PSMCの資料集
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Ryo Kikuuwe, Satoshi Yasukouchi, Hideo Fujimoto, and Motoji Yamamoto:Proxy-Based Sliding Mode Control: A Safer Extension of PID Position Control, IEEE Transactions on Robotics, 26(4), pp.670-683, 2010..
- もっとも詳細な情報を記載しています.安定性に関する解析も含まれています.
- [IEEE Xplore へのリンク]
- [PDFファイル]
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- [IEEEの著作権規定へのリンク]
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Ryo Kikuuwe and Hideo Fujimoto:“Proxy-Based Sliding Mode Control For Accurate and Safe Position Control,”In Proceedings of the 2006 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2006), pp. 25-30, 2006 (Orlando, USA).
- 上記の雑誌論文の下書き的な講演会予稿論文です.
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©2006 IEEE. Personal use of this material is permitted. However, permission to reprint/republish this material for advertising or promotional purposes or for creating new collective works for resale or redistribution to servers or lists, or to reuse any copyrighted component of this work in other works must be obtained from the IEEE.
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Ryo Kikuuwe, Takahiro Yamamoto, and Hideo Fujimoto:“Velocity-Bounding Stiff Position Controller,”In Proceedings of the 2006 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2006), pp. 3050-3055, October 2006 (Beijing, China).
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- PSMCの改良版,『速度制限付きプロクシベースト・スライディングモード制御』(Velocity-Bounding PSMC, VB-PSMC)の説明をしています.
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菊植亮,藤本英雄:“滑り状態に有限時間到達する離散時間スライディングモード制御”,日本ロボット学会学術講演会講演論文集,3A16,2005年9月.
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- 最初の発表です.PD型のPSMCについて説明しています.「スライディングモード制御のチャタリングを防ぐ」ことが目的のような書き方をしていますが,この説明のしかたは誤解を招きやすいので最近は控えています.
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菊植亮,藤本英雄:“プロクシベースト・スライディングモード制御の安全性と速応性”,日本ロボット学会学術講演会講演論文集,2C15,2006年9月.
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- PSMCの利点を状態方程式を使って説明しています.局所的には速応性が高く,広域的には緩やかな特性を示します.緩やかな応答特性は「不可撹乱」な特性を持ち,通常動作時の誤差に影響しません.
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菊植亮:“プロクシベースト・スライディングモード制御の再解釈と一般化”,日本ロボット学会学術講演会講演論文集,1M15,2007年9月.
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- PSMCの今後の一般化と発展のための数学的なフレームワークを示しています.
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菊植亮:“滑らかでないシステムの離散時間表現とヒューマンインタフェースへの応用”,九州大学ロボティクスリサーチコア第7回研究会(2007年7月4日(水))における発表資料.
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- PSMCがどのような経緯で考案されたかを説明しています.
PSMCに関するFAQ (2010/5/19 更新)
- Q1: PSMCはスライディングモード制御の一種ですか?
- A1: はい.本来のスライディングモード制御は不連続な切り替えによるチャタリングを生じるため,実際に用いるためには様々な近似的な手法を用いる必要があります.その意味でPSMCは,スライディングモードの「新しいタイプの近似」の一つと見なすことができると考えています.
- Q2: PSMCは境界層付きスライディングモード制御ですか?
- A2: いいえ.PSMCでも境界層に相当するものを定義することはできますが,状態空間から独立した別の状態変数(プロクシと制御対象の変位)がその定義に含まれます.そのため,「境界層」内部でのダイナミクスとスライディング平面自体のダイナミクスが独立です.そういう意味で,従来の「境界層付きスライディングモード制御」とはまったく異なります.
- Q3: PSMCは飽和型PID制御ですか?
- A3: いいえ.飽和前と飽和後のダイナミクスが独立に設計されていますので,単純な飽和つきPID制御ではありません.
- Q4: 切替制御またはプログラム上の条件分岐で同様の応答特性を作ることは可能ですか?
- A4: 可能かもしれませんが,切替の整合性を保つためにはおそらく複雑な条件分岐が必要になるはずです.複雑な条件分岐はプログラムのバグや信頼性の低下につながります.
- Q5: 安定性は保証されていますか?
- A5: 目標位置が一定であるときの準大域的漸近安定性は証明できました.通常のPID制御と同様に,非線形項(遠心力・コリオリ力)が十分に小さいという前提の下での安定性です.アクチュエータの力が飽和していない状況では,PID制御と等価です.
- Q6: スライディングモードへの可到達性は保証されていますか?
- A6: アクチュエータの力が制限されていますので,可到達性は保証されていません.外乱が十分に小さい場合の可到達性については,証明できています.アクチュエータの力が飽和していない状況では,PID制御と等価です.
- Q7: PSMCはAnti-Windup制御ですか?
- A7: はい.Anti-Windup制御の一種とみなすことが可能です.アクチュエータの飽和によって生じた大きな偏差から,穏やかに復帰することができます.飽和前と飽和後をシームレスに繋いだアルゴリズムになっています.
PSMCに関するリンク
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Robotics and MultiBody Mechanics Research Group, Vrije Universiteit Brussel
- 空気圧のSoft ArmにPSMCを実装されたそうです.
- M. Van Damme, B. Vanderborght, R. Van Ham, B. Verrelst, F. Daerden, and D. Lefeber:“Proxy-Based Sliding Mode Control of a Manipulator Actuated by Pleated Pneumatic Artificial Muscles,”In Proceedings of the 2007 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA 2006), pp. 4355-4360, 2007 (Rome, Italy).
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