観察のポイント
加速電圧の使い分け
S-5200は0.5~30kVの間で加速電圧を選択できます。加速電圧は高くするほど、電子の波長が短くなり、それに伴って空間分解能も向上します。但し、高加速電圧では電子線による試料加熱、帯電が起こりやすくなるといったデメリットも存在します。従って、熱に弱い、もしくは帯電しやすい試料は低加速電圧で観察します。また、試料表面の僅かな凹凸は、低加速電圧で観察したほうがより鮮明に見えます。低加速電圧でも鮮明な像が得られるのは、FE銃の大きなメリットです。試料特性、観察目的に合わせて適切な加速電圧を選択することが重要です。
上の二つの写真は異なる加速電圧で撮影したバイオマットの二次電子像です(試料は広島大学化学専攻放射線反応化学研究室よりご提供頂きました)。左が3kV、右が20kVの加速電圧で撮像したものです。右の像(20kV)では試料表面の微細構造がほとんど見えません。
EDSを使う時の設定
EDSを用いて化学組成分析を行う際にも目的に応じた調整が必要です。以下に、その例を示します。
・定量分析(半定量含む) 定量分析を行う際はエネルギー分解能を最優先させます。エネルギー分解能は時定数、もしくは分析モードと表記されている項目で調整します。時定数の場合は最も大きな数字を選択して下さい。その後、計数率モニターを見ながら、デッドタイムが20%から40%の間に収まるようにビームを調整します。
・元素マップ 元素マッピングを行う際はエネルギー分解能よりも信号強度を優先させます。指定した元素を区別できれば良いので、高いエネルギー分解能は必要ありません(指定した元素によっては必要な場合もあります)。鮮明な元素マップを得るには、より多くの特性X線を検出し、分析範囲内の元素濃度差を明確にする必要があります。そのためには、時定数を下げて(具体的には一番大きな数字の半分、もしくは四分の一を選択)、計数率モニターでデッドタイムが30%から40%の間に収まるようにビームを調整します。
・微小領域の分析 微小領域の分析を行う場合(半径500nm以下の領域を分析したい場合)は、可能な範囲で加速電圧を下げます。可能な範囲とは、測定したい元素の特性X線強度が確保できる範囲内でという意味です(当然ですが、加速電圧が測定したい元素の特性X線の励起電圧を下回ると仮にその元素が存在しても特性X線は発生しません)。測定したい元素によりますが、目的とする特性X線の励起電圧プラス3kV程度が目安です。電圧を下げると、試料からの特性X線の放出量が減少するので、ビーム調整を行い必要な信号強度を確保して下さい。
・ビーム調整って? ここで言うビーム調整とは、フィラメントに流す電流量、集束レンズの電流値、の調整を指しています。どちらもソフトウェア上で簡単に調整できます。
トラブル対応
当センタ―で装置を利用されている際にトラブルが発生した場合はすぐに担当者に報告して下さい。ここに書いてあることであっても、必ず一度は担当者から詳しい説明を受けて下さい。他機関の方がここに書いてある対処法を実践される場合は自己責任でお願い致します。
・像が見えない 原因は主に三つです。①試料の高さが合っていない。試料は装置に挿入する前に必ず高さを測り、その高さをソフトウェア上で入力します。この高さが合っていないと何も見えません。Height Modeに入力した高さを一つ上か、一つ下に変更して下さい。②コントラスト・ブライトネスが極端にずれている。像が真っ暗(もしくは真っ白)という場合はコントラスト・ブライトネスが大きくずれている可能性があります。シークバーの右端や左端にコントラスト・ブライトネスが設定されていないか確認して下さい。③試料からガスが出ている。何らかの理由で試料からガスが放出されていると、S/Nが悪くなり、テレビの砂嵐のような像が見えます。一旦電圧をoffにしてすぐに担当者に報告して下さい。
・ピントが合わない 原因は主に二つです。①高さが合っていない。OBJECT FOCUSを回してピントを合わせようとするとピントが合う前に「ピピピッ」とリミットを知らせる音がなる場合は、高さが合っていません。Height Modeの値を一つ上、もしくは一つ下にずらしてから、再度OBJECT FOCUSでピントを合わせて下さい。②非点補正ができていない。OBJECT FOCUSを大きく回したときに、画像が特定の報告に伸長して見える場合は非点がずれています。STIGMAつまみのX,Yを回して、フォーカスを回しても画像が伸長しないように調整して下さい。
・EDS分析の際に予想していた元素がでてこない 原因は主に三つです。①そもそも試料ではないものを測定している。初めて見るものを測定する際にはよくあります。事前に論文等で試料の形状を把握した上で測定に臨んでください。②加速電圧の設定が不適切である。測定したい元素の励起電圧よりも加速電圧が低ければ、そこにその元素があっても検出されることはありません。③何らかのノイズが発生している。低エネルギー帯(0.2eV以下)に大きなピークが見える場合はノイズが発生している可能性が高いです。ノイズの発生原因は主に二つです。EDS検出器がまだ十分に冷えていない(緑ランプが点灯してもまだ十分に冷えていないこともあります)。試料からガスがでている。どちらの場合でも、すぐに電圧をオフにして、EDS検出器を後ろに下げた後、担当者に報告して下さい。