電子顕微鏡のページ

装置の概要

電子銃

電子銃は電子を発生させる仕組みの違いから、熱電子放出型・電界放出型・ショットキー型の3つに大別できます。図1は熱電子放出型電子銃の構造を示しています。仕組みは非常に単純で、フィラメントを加熱するとその先端から熱電子が放出されます。放出された熱電子は陽極に引っ張られることで、電子線を形成します。但し、陽極で引っ張るだけでは電子線の大部分は陽極そのものに衝突してしまいます。陽極中央に開けられた小さな穴を多くの電子が通過するために、電子線を細く絞る必要があります。

 電子線を絞るためにウェーネルトキャップが用いられます。ウェーネルトキャップはフィラメントと陽極の間に挿入します。ウェーネルトキャップにはマイナスの電圧が掛かっているため、ここを通過する際に電子線は絞られます。この際にもっとも細く縛られた点をクロスオーバーと呼びます。

図2は電界放出型電子銃の構造を示しています。熱電子放出型電子銃は文字通り加熱することで電子を発生させますが、電界放射型電子銃の場合は磁場を用いています。フィラメント先端の近傍で強電界を掛けることで、トンネル効果を引き起こし、加熱することなく効率よく電子を放出させています。このため、熱電子放出型の電子銃に比べて、1000倍ほど輝度の高い電子線を生み出すことができます。また、非加熱のため放出された電子のエネルギーが均質であることも特徴です。

フィラメントを加熱しないことはメリット同時にデメリットも生み出します。非加熱のため銃室に僅かでもガスがあるとフィラメント先端に吸着し、電子の放出量が急激に減少します。できるだけガスを抑えるために、電界放出型の電子銃室は、熱電子放出型の電子銃室よりも数ケタ上の真空値を必要とします。

ショットキー型電子銃は、ショットキー効果を利用した電子銃です。ショットキー効果とは導体表面に強い電界を掛けるとポテンシャルエネルギーが低下し、熱電子が放出しやすくなる現象のことです。比較的低温の加熱で効率よく熱電子を得られます。電界放出型電子銃と比べると分解能の点では劣りますが、エミッタ(フィラメントとほぼ同じ意味)が高温に保たれているため熱電子の放出量が安定しています。

電磁レンズ

電子顕微鏡は、電子線を自在に操作するために電磁レンズを用いています。これは光学顕微鏡のガラスレンズに相当するものです。TEMの場合は電子銃に近い方から順に、収束レンズ、対物レンズ、投影レンズの3段階のレンズ系から成り立っています(SEMだと投影レンズはない)。収束レンズは照射電流量、対物レンズはピント、投影レンズは拡大倍率、の調整にそれぞれ利用されています。

図3はアウトレンズ型対物レンズの構造を示しています。コイルの周りを鉄枠で囲み(この囲みをヨークと呼ぶ)、狭い領域から高密度の磁力線を発生させています。アウトレンズ型はレンズと試料の距離(ワーキングディスタンス(WD)と呼ぶ)が大きいため、収差(ピンぼけ)をある一定値よりも小さくできません。そのため、あまり高い空間分解能を期待することは出来ません。その代わりに試料室が広いため、大きな試料をそのままで観察・分析できます。主に、汎用SEMに利用されている電磁レンズです。

 

図4はインレンズ型対物レンズの構造を示しています。アウトレンズ型との大きな違いはレンズ磁場の中に試料を設置することです。レンズと試料の距離が近いので収差が小さくなり、高い空間分解能が得られます。TEMやFE-SEMに利用されているレンズです。

排気系

電子線を自在に操るには鏡筒内を真空に保つ必要があります。特に、電子線の発生源である電子銃室は高真空を必要とします。

汎用SEMの場合は一次引きにロータリーポンプ、二次引きにディフュージョンポンプの組わせを使っていることが多いです。FE-SEMやTEMのようなより空間分解能の高い装置ではロータリーポンプ、ディフュージョンポンプ、イオンポンプの組み合わせか、スクロールポンプ、ターボポンプ、イオンポンプの組み合わせが使われています。前者はオイルを使ったポンプが含まれていますが、後者はオイルフリーのポンプしか使われていません。オイルを使ったポンプでは微量ではありますが、オイルによる試料汚染が発生します。そのため、近年ではオイルフリーの組み合わせのポンプを使った装置が増えています。

 

検出系

電子は目では見えないため検出器が必要です。SEMの場合、電子は二次電子検出器、もしくは反射電子検出器を用いて検出されます。二次電子像は試料表面の凹凸、反射電子像は試料の化学組成、をそれぞれ反映しています。二次電子像では手前にあるもの、もしくは尖ったところ(角)が明るく見え、反射電子像では、重たい元素から構成されているものほど明るく見えます。

TEMの場合、電子はCCDカメラによって検出されます。昔はフィルムが使われていましたが、今はほぼ使われていません。CCDカメラの性能が向上し、フィルムと変わらない綺麗な画像が取得できるようになったこと、現像のいらない手軽さがその理由です。