隕石について
前書き
ここでは私が学生時代に研究していた隕石について紹介します。学術的な分類や特徴ではなく、一般の方(理科が好きな中学生を想定)にも興味を持ってもらえそうな話題を紹介します。ざっくりとした感じで正確ではない部分も一部含みますが、おおらかな気持ちで読んでもらえればと思います。
隕石とは?
隕石とは、宇宙から地球に飛来した物質のうち、大気との摩擦で燃え尽きなかったものを指します。従って、流れ星の燃え残りが隕石とも言えます。正確には、燃え尽きなかった物のうち、直径1mm以上の物を隕石と呼びます。1mm以下のものを宇宙塵(うちゅうじん)と呼びます。
隕石って素人にも見分けられるの?
ある程度は見分けられます。以下にポイントを示します。①黒い。隕石は地球に落下する際に、大気との摩擦で表面が融けます。この部分が黒く見えます。 また、この部分をフュージョンクラストと言います。
②重い。その辺に落ちている石ころよりも重たいです。隕石は構成物、組織的特徴などからいくつかのタイプに分類されます。その中でも最も量が多いのが普通コンドライトです。地上に落下した隕石のうち8割以上が普通コンドライトです。普通コンドライトは主にかんらん石や輝石から出来ており、日本でよく見られる安山岩や花崗岩と比べると重たいです。
③球形粒子がある。コンドライトに分類される隕石のほとんどはコンドリュールと呼ばれる球形粒子を含んでいます。コンドリュールは、主にケイ酸塩鉱物から形成されています。コンドリュールは隕石特有の組織であり、地上の岩石では似たような組織は見られません。
隕石ってどこで見つけるの?
南極か砂漠で拾います。南極で拾っているのは研究者で、砂漠で拾っているのはお金で雇われた現地人です。南極は元々隕石以外の石は少ないので、石があれば拾います。 砂漠には石そのものはありますが、黒い石が珍しいため隕石は目立ちます。また、南極、砂漠ともに地上での風化が進み難いため比較的状態の良い隕石が手に入るという利点もあります。
南極には多くの国々が毎年研究チームを派遣しています。この中に隕石回収チームが居る国もあります(日本とかアメリカとか韓国とか)。日本の場合は一列に並んで、黒い石を拾ってくると言う非常に単純な方法を採用しています。簡単そうですが、運悪くクレバスに落っこちれば死んでしまうので、危険を伴う作業です。ちなみにこの隕石回収チームは大学の教員や国立極地研究所の職員から構成されています。
隕石の中に宇宙生命体はいないの?
生命と呼べるものは今のところ見つかっていません。そもそも、どこから「生命」なのかは科学的に結論がでていません。
しかし、地球上の生命の源である有機物そのものはたくさん見つかっています。昔は隕石中に有機物が見つかっても、それは地上で後から混入したものではないか?と言われていましたが(実際そういうことも多かった)、最近はサンプル保管技術、分析技術の進歩によって、明確に宇宙産だと言える有機物が見つかっています。
従って、原始の地球の海に宇宙産の有機物を含んだ隕石が衝突し、その際何らかの化学反応が起きて生命(の元)が誕生した、という可能性はあります。実際、有機物・水・鉱物を一緒にした状態で衝撃を加えるとどのような反応が起こるのかは、現在研究されています。こういった研究は、物理学、鉱物学、地球化学、生物学、など多くの分野の人が協力し進められ、分野融合的という意味でも面白い研究です。
なぜ隕石を研究するの?
地球は太古の昔に核とマントルに分化しており、分化する前の情報は残されていません。また、現時点では核を構成する物質を直接採取する方法すらありません。
しかし、隕石には分化を経験しなかったもの、元々は惑星の核だったと考えられるものがあり、これらを研究することで地球がすでに失った情報や入手が困難な情報を得ることができます。実際に隕石を調べることで、太陽系の年齢や化学組成といった、地上の物質を研究するだけでは知るのが難しいこともわかりました。 それだけでなく、隕石の中には太陽系が出来る前に、太陽系の外で作られたと考えられる微粒子(プレソーラーグレイン)を含むものもあり、小さいな石ころを通して、宇宙の歴史を知ることが出来るのです。空から降ってきた石っころは、研究者にとっては紛れもない宝物なのです。
アポロ計画と隕石
1969年。隕石科学にとって3つの幸運が重なります。①アポロ11号が月の石を持ち帰る。
②メキシコにアエンデ隕石が落下。始原的な情報を保持する炭素質コンドライトを大量(回収量は約3トン)にゲット。
③オーストラリアにマーチソン隕石が落下。始原的な情報を保持する炭素質コンドライトを大量(回収量は約100Kg)にゲット。
ポイントはアポロ11号が月の石を持ち帰ってくる予定だった時期に、巨大な炭素質コンドライトが2つも地上に落下して、地上での汚染をほとんど受けることなくすぐに回収されたことです。世界中の研究者は、アポロが持ち帰るはずの月の石を分析する準備を整えていました。アエンデ隕石、マーチソン隕石は月の石用に準備された最新の設備、最適な環境下で観察・分析され、炭素質コンドライトの研究は飛躍的に進みました。 1969年は日本の隕石研究にとっても幸運な年でした。第10次南極地域観測隊が、昭和基地の南西約300Kmにある、やまと山脈付近の裸氷帯から9個の隕石を発見します。後に、このやまと山脈付近から大量の隕石が発見されます。おかげで、日本の隕石保有数は世界2位です(1位はアメリカ、NASAが南極でザクザク拾っています)。
隕石を研究するのは楽しいか?
凄く楽しいです。宇宙に興味があり、想像力豊かで、石や鉱物が好きな人には最適な研究分野でしょう。日本は現在、「はやぶさ2」のミッションを進行中です。はやぶさ2は順調にいけば、2020年に小惑星の試料を地球に持ち帰ってきます。 その時には日本の研究者が協力して回収試料の観察・分析が行われるでしょう。初代はやぶさ計画は、100点満点以上の成果(小惑星イトカワにたどり着いたら100点という計画でした)を上げたのですが、地球に帰還した翌日がサッカーワールドカップの日本対フランス戦という強烈なタイミングの悪さもあって、 あまり大々的な報道とはなりませんでした。はやぶさ2が再び大成功をおさめ、その成果が大々的に報道されることを密かに期待しています。そして、多くの若人がこの分野に飛び込むことにも期待しています。