概要
ここでの3Dプリント教材は,3Dプリンターで印刷した教育用教材を指しています。盲の児童生徒であれば触察による形状の観察,弱視の児童生徒であれば見やすい距離でじっくりと視覚による観察,それ以外にも障害の有無に関わらず,3次元にすることで気がつくこと,発見があります!最近,写真や図譜のように平面落とし込んで,視覚中心に観察して学習することが増えていますが,3Dプリント教材にすることで,平面では吸収できない情報による学習が可能になります!
氏間研究室では,以下のような教材を開発しており,貸し出しを行なっています。貸し出しの場合は,送料をご負担いただければ対応できます。
3Dプリント教材の特徴
これまでの実践の中で以下のような長所があるように考えています。学習上の効果
- 静的教材で形状の観察が可能
- 拡大印刷により細部構造の観察が可能
- 縮小印刷により概形の観察が可能
- 様々なサイズの教材を組み合わせて全体と部分の対応関係の観察が可能
- スケールを合わせた教材作成で,大きさの比較が可能
- 現存しない事物の教材化でイメージの共有が可能
- 地図データなどからの作成でマップの学習が可能
視覚障害の状態で獲得されにくい概念には以下の7つの観点があると言われています(佐藤, 1988)。
視覚障害下で獲得しにくい概念
d- とても大きいもの
- 小さいもの
- 遠くにあるもの
- 動いているもの
- 触ると変化するもの
- 触れないもの
- 触ると危険なもの
また,弱視の場合は,以下の9つの特徴が挙げられています。
- 細かい部分がよくわからない
- 大きいものでは全体把握が困難である
- 全体と部分を同時に把握することが難しい
- 境界がはっきりしない
- 立体感が欠ける
- 運動知覚の困難なものが多い
- 遠くの物がよく見えない
- 知覚の速度が遅い
- 目と手の協応動作が困難
3Dプリント教材はこれらの盲と弱視の状態で学習しにくい事物の特性に対応できる教材を作成することに有効であると考えられます。
ただ,以下のような短所もあるように思います。積層タイプの場合,どうしても筋が出てしまう。教材サイズはプリンタのサイズに依存する。機器やソフトの操作への多少の慣れが必要。教材を印刷する際の調整(サポートやインフィル密度,壁の厚さ,サイズ等)が必要だったりする。ただ,一度理想系ができてしまえば,いくつでも印刷できますから,視覚障害教育をはじめ,様々な教育場面での活用に期待できますね!
佐藤泰正 (1988) 視覚障害心理学. 14-14.
データ取得上のメリット
- 公開データで様々な構造物を観察可能
- 自作により目的とする構造物を作成可能
- 3Dスキャンして3Dプリント教材の作成が可能
3Dプリント教材例
エッフェル塔観察教材
1 エッフェル塔と凱旋門の概形
エッフェル塔と凱旋門の概形を触って確かめられます。鉄骨構造のエッフェル塔はアミアミの構造です。凱旋門は石造りなので全面が壁に覆われています。また,四角錐の形のエッフェル塔と直方体の形の凱旋門など,それぞれの概形を確かめられます。
2 エッフェル塔と凱旋門の大きさ比較
エッフェル塔は凱旋門の6倍の高さがあります。エッフェル塔は約300m,凱旋門は約50mの高さです。この2つの大きさを対比させて観察することができます。
3 エッフェル塔の脚
エッフェル塔の脚を拡大して印刷した教材で,エッフェル塔の全体模型では触知しにくい,鉄骨の構造を確認することができます。エッフェル塔の高さ約30mあたりまでの部分を印刷しています。
4 鉄骨構造
エッフェル塔の脚の一本一本の鉄骨は,棒ではなくて,鉄骨の筋交の構造でできています。この筋交の構造を観察して確かめることができます。
これらの教材を併せて利用することで,エッフェル塔の全体を捉えた上で,拡大された脚一本を触ることで,柱の鉄骨の構造を理解し,さらに柱の一本一本がさらに筋交の構造になっていること,全体と部分の対応を関連づけながら理解していただくことができるように考えてみました。もちろんそれ以外の活用方法もあると思います。ぜひ,エッフェル塔と凱旋門で,パラリンピック,オリンピックをお楽しみください。
3棟比較セット教材
エッフェル塔,東京タワー,東京スカイツリーを同じ縮尺にして観察できるセットです。ここではこの3つを取り上げていますが,様々な組み合わせが考えられます。こうして同じ縮尺で印刷して比較観察してみると,底面積の大きさなど,写真ではわかりにくい部分に気がつくことができます。
自由の女神の全体とアップ
自由の女神などの大きい建造物も,全体の概形の観察,細部の観察,そして全体と部分の対応が難しいものの一つです。3Dプリント教材なら,拡大印刷はお手のものです!
各種哺乳類教材
哺乳類など動くものは,じっくり触ったり,しっかり目に近づけて観察したりすることが困難です。このように静的な教材を利用することで様々な部位の計上を確認できます。アクリル絵の具などで着色する活動を行うことで,色への関心を高めることができますし,立体的な塗り絵は子供たちの注意を惹きます。大きな動物は触れる程度の大きさにして観察できますし,小さな動物は触れる程度に拡大できることも魅力ですね。また,縮尺を同じにすることで動物同士の関係を大きさの点から観察できますし,人間を配置することで,実際の大きさをイメージしやすくないますね。
惑星教材
惑星などの天体も3Dプリント教材に向いていますね! このモデルは,474百万分の1(0.00000000211倍)のモデルです。このサイズだと木製の直径を30cmに収めることができます。写真では土星がまだ印刷できていません。直径30cm程度の造形物になると,印刷が失敗しやすくなります。またフィラメントは1辺の大きさに対して,3乗の使用量増加があります。したがってこの両者をうまくいくようにデザインを工夫する点が大切だということがよくわかりました。木星の上が黒いのは白いフィラメントがなくなったためです。笑
この惑星は10億分の1スケールです。太陽の直径が約1m40cmほどです。10億分の1スケールだと,私が持っているプリンタで土星の輪を印刷できます。この輪は吉富先生が設計してくださいました。
こちらの惑星は5億分の1スケールです。
これらの惑星の作成には,吉富教授のご助言を頂戴しました。ありがとうございます!
「ごんぎつね」教材
国語などの物語のイメージを共有するのに,このようなストーリーボックスを3Dプリント教材で作成することは有効です。指導者の頭の中のイメージと,児童生徒の頭の中のイメージを共有することで,物語の正解を共有した上で授業を展開できます。また,お城,鳥居,山の概形など普段十分に形状を確認できにくいものの形状を学習する良い機会にもなります。視覚障害のみならず,知的障害や発達障害の特別支援の授業や,小学校・中学校などの通常の学級の授業でも有効だと考えられます。PLA素材を利用することで頑強な溶剤にすることができますし,着色するとさらに現実的となります。また,3Dプリント教材はミリ単位でサイズを指定して印刷できますから,縮尺を微調整したり,子供の手の大きさに合わせて印刷することができる点も教材としての長所があります。ここでは,中山様のお城,家,納,農夫(兵十をイメージ),狐,山,鳥居,六地蔵,鳥居を印刷しています。
「スイミー」教材
スイミーの中で登場する,伊勢海老とイソギンチャクを印刷して欲しいとのリクエストがある盲学校の先生方よりあり,印刷しました。こういったなかなか模型では手に入らないものを自作できるのも3Dプリント教材の良いところですね!
昆虫教材
昆虫も動き回って観察しにくいものの代表です。静的な3Dプリント教材で印刷することで,静止した状態で観察することで形状を学ぶことができます。また小さい昆虫を大きく印刷することで,詳細な形状を学習できます。詳細な形状を頭に入れた状態で教科書を読んだり,本物の虫を観察することで,頭の中のイメージを適用しながら解釈でき,理解が促されることが期待できます。
臓器
理療科や理科で用いる臓器も3Dプリント教材にうってつけです。サイズの変更はもちろんですが,右にあるように,印刷時に切断することで,任意の面での観察が可能になります。
様々な造形物
世界の有名な造形物を様々な大きさで印刷可能です。ここでは自由の女神とミロのヴィーナスを印刷しています。
自立活動の教材
ボルトとナットです!手の運動の分化,捻る運動の獲得など,様々な用途で利用できます。色を変えてみました。こうすることで,見えている子供であれば,青まで回すとか,緑で止めるなど,目標にしたり,目的にすることもできますね!
数字プレートです。溝が空いているものは指をそわせて各練習,サンドライティングに似た効果を期待できそうです!白に黒は形の確認,白に色付きは,カーブに着目できるように色を変えてみました。
各種拡大読書器ホルダー
特に携帯型拡大読書器は固定がもう少し上手くいくと使い所が増えますね!1台1台,一人一人のニーズに応じてホルダーを自作できるのも3Dプリント教材の醍醐味です。
3Dスキャンして!
事物がある場合,3Dスキャンして3Dプリント教材を作ることが可能です。
プリンタあれこれ
プリンタ環境
研究室には,Creality Ender3 V3 KE,Creality Ender3 V3 PLUS,Bambulab A1とAMS liteがあります。KEは細々とよく動かします。Plusは30cm*30cm*33cmの大型のものを印刷します。A1は四色までの多色刷りの際に利用します。
プリンタの調整 KE
以下の写真のように,KEは,棚板と棚板の間隔が70cmほど必要です。
そこで,いくつかのものを印刷して,この高さを10cm短くしたいと思います。現在,以下のようになっております。
センサー ホルダーは,KEのフレームにセンサーを取り付けるためのパーツです。もともとついているネジで固定できます。
フィラメントホルダーは,フィラメントのスプールをKEの横,操作版の後方に設置するためのパーツです。ネジなどは不要で,台と操作版の間にスライドさせて取り付けます。
チューブホルダーは,フィラメントスプールからセンサーまでのチューブを固定するためのパーツです。私的にしっくりくるものがなかったため,自作しました。STLファイルとgcodeファイルを公開します。
このほかに,チューブですね。PTFEチューブが必要です。内径2mm,外径4mm程度が良いでしょう。長さは適宜,調整してください。ここで利用しているのは1mです。
AMS liteの防湿対策
BambuLabのA1というプリンタがあります。このプリンタはAMS liteという装置を利用することで最大4本のフィラメントを搭載し,多色刷りが可能となります。しかし,懸念材料として,AMS liteはフィラメントが露出しているため,湿気の吸い込みが心配ですね。その対策を紹介していきます。
いろいろ探しましたが,工作の知識や技能が必要だったり,AMS lite用の箱が売られてはいますが,イマイチ評価が低かったりしていたので,少々経費がかかっても,確実に防湿対策ができる方法を考えました。まずはAMS liteを格納する箱を探しました。そこで目についたのがオーダーメイドでアクリル板の箱を作ってくれる会社です。今回お世話になったのは,はざいやさんです。ここで以下のようなアクリルの箱をオーダーメイドで発注しました。
使用は,ケース :アクリル板 (透明)【指定無し】透明 押出し 幅 270mm 奥行 470mm 高さ 420 mm 板厚 3 mm (内寸)
台座あり 台座材質:アクリル板 (白黒)【指定無し】黒 押出し 台座板厚:5mm (簡易版) 重量(加工前、一枚あたり):約2.75kgでした。価格は1万4千円ちょっとで,想像していたよりも安価で助かりました。
その箱に穴を5つあけました。4つの穴はフィラメントを送るチューブを通す穴,1つの穴はAMS liteとプリンタを接続するケーブルを通す穴です。フィラメントの穴はチューブの直径が4mm,ケーブルは直径が6mmでしたので,それっぽい穴を,ハンダコテで開けました。
その中に,フィラメントの袋の中に入っている乾燥剤をいくつか入れております。現在,湿度計を発注中で,到着したら,この箱の効果を見てみたいと思います。