沖縄調査
沖縄県石川・宜野座漁協における中核的漁業者協業体の取組事例とその評価
近畿大学COE博士研究員 鳥居享司
nk_torii@nara.kindai.ac.jp
1.はじめに    2.地域漁業の概要    3.「石川・宜野座定置網協会」の結成の背景と活動目標     4.「協業体」の組織概要
5.協業体での活動内容とその成果    6.当事例の評価    7.事例研究を通じてみた協業体事業の課題


2.地域漁業の概要

1)石川市漁協
 石川市は2005年4月1日,与那城町,具志川市,勝連町と合併してうるま市となった。旧・石川市は那覇市から約1時間の所に位置する人口約2.2万人の地区である。かつては農業や漁業の盛んな地域であったが,1980年代後半以降,大規模リゾートホテルが2軒建設されるなど観光産業も盛んになっている。 石川市漁協には2005年現在,正組合員45名,准組合員52名,合計97名の漁業者が属している。正組合員の年齢構成を見ると50歳代以上の漁業者が全体の70%以上を占めている。主な漁業種類は,刺網,ソデイカ漁業,パヤオ漁業,モズク養殖,定置網,一本釣り,潜水器漁業である(表1)。 漁船規模を見ると5トン未満の漁船が80%以上を占めている。5トン以上の大型船を所有する漁業者の大半が沖合海域でのソデイカ漁業を営んでいる。一本釣りや刺網など金武湾内を中心に漁業については3トン未満の漁船が用いられている。漁業種類の組み合わせパターンを見ると,小型船所有者は「モズク,潜水器」,「刺網,一本釣り,カゴ網」,5トン以上の大型船所有者はソデイカ漁を中心にパヤオ漁,一本釣り,刺網などを組み合わせている。なお,大型定置網は専業,小型定置網は兼業で営まれている。

 石川市漁協における魚介類の取扱量及び金額を見ると,1990年代後半の水揚量は200トン前後であったが,2004年は約80トンへと大幅に落ち込んでいる(図2)。水揚金額は1992年前後には2億円を記録したものの,2004年は約5,000万円と大幅に減少している。 これは主力漁業種類であるソデイカ漁や定置網などの水揚量減少,および販売単価の下落が一因である。ソデイカ漁はかつて1,000万円〜3,000万円程度の水揚金額があったが,現在は1,000万円に満たない経営体が多い。また,大型定置網は2000万円,小型定置網は500万円〜700万円の水揚金額があったが,現在ではその半分以下にまで落ち込んでいる。また,漁協取扱分の単価を見ると,1997年には820円/kgであったが,2003年にはその半分程度の460円/kg程度にまで下落しており,水揚量の減少と単価下落によって漁家・漁協経営は厳しさを増している。 石川市漁協に集荷された魚介類は,石川市漁協の市場または那覇市の県漁連市場でセリにかけている。通常は石川市漁協の市場でセリにかけるが,大漁時には市場価格が下がるため県漁連市場へ出荷している。県漁連への出荷割合は10%程度である。なお,定置網で漁獲した魚介類については量販店や鮮魚店へ販売するケースもある。


2)宜野座村漁協
 宜野座村は那覇市から車で約90分の位置にある人口約5,300人の村である(図1)。基幹産業は農業であり,サトウキビ,馬鈴薯,菊,蘭,マンゴーなどの生産が盛んに行われている。 宜野座村漁協には正組合員72名,准組合員46名,合計118名の漁業者が属している。正組合員の年齢構成を見ると,50歳以上の漁業者が全体の50%以上を占めている。漁協の取扱金額は2000年以降,約1.5億円で横ばい傾向にある(図3)。 主な漁業種類は藻類養殖,刺網,ソデイカ漁,曳縄釣り,一本釣りである(表2)。近年は藻類養殖業への従事者が増加している。モズク養殖を行っている漁業者は25名程度であり,40歳代から50歳代の漁業者が中心を占めているが,若い漁業者も新規参入または後継者として着業している。さらに2003年からは,ウミブドウの試験養殖が開始された。漁協は構造改善事業を活用して養殖施設の建設を進め,その施設を組合員へ貸与している。そして2005年から本格的な養殖生産活動が開始された。その後もウミブドウ養殖への従事を希望する漁業者が見られ,現在では14名ほどがウミブドウ養殖を行っている。漁協の生産施設だけでは十分ではないため,個別に生産施設を建設して規模拡大を図っている漁業者もみられる。大半がモズク養殖との組み合わせである。