沖縄調査
沖縄県石川・宜野座漁協における中核的漁業者協業体の取組事例とその評価
近畿大学COE博士研究員 鳥居享司
nk_torii@nara.kindai.ac.jp
1.はじめに    2.地域漁業の概要    3.「石川・宜野座定置網協会」の結成の背景と活動目標     4.「協業体」の組織概要
5.協業体での活動内容とその成果    6.当事例の評価    7.事例研究を通じてみた協業体事業の課題


6.当事例の評価

1)支援事業の対象として
 まず,協業体事業の対象としての妥当性を見る。当時例は石川・宜野座漁協にとって定置網漁業は主力漁業のひとつであり,さらに10名程度の雇用機会を生み出す産業としても重要である。水揚金額の減少に見舞われているとはいえ両漁協の取扱金額の10%近くを占めている。地域漁業の担い手のひとりとして期待されており,「中核的漁業者協業体取組支援事業」の趣旨とも合致するものであろう。

2)活動内容について
 次に活動内容についてみる。協業体を組織した3グループは,協業体を結成する以前から共同出荷や労働力の融通といった取り組みを行ってきた。協業体結成以降は共同出荷や労働力の融通といった従来までの関係性の強化,さらには補助金を活用してハード面の整備(定置網,高圧洗浄機,チラシ作成,パソコン購入など)をすすめてきた。 生産局面では,海上・陸上作業時の労働力融通,漁業関連器具(定置網,高圧洗浄機)の共同利用などの協業化が進められた。労働力の融通は作業効率の向上と人件費削減という効果を生み,高圧洗浄機の導入は作業効率の改善と余剰時間の創出に寄与している。発生した余剰時間は販売対応や海洋レジャー事業対応へ充てられている。また,定置網の共同購入・設置によって新たな水揚金額の発生による漁家経営改善に期待が寄せられた。 出荷・販売局面では,協業化を機に量販店への共同出荷体制を強化することによって販売単価の改善が試みられた。共同出荷による安定出荷体制の確立,配送や荷捌きを漁業者が負担した結果,市場出荷よりも有利な価格で取引されるケースが多くを占めるという効果を生み出した。全体的に出荷価格の下落が指摘されるなか,A氏の出荷単価は若干改善,B氏は横ばい傾向にある。 このように,生産施設の拡充,人件費削減,販売価格の改善・維持が進められ,「同一量の水揚げ」と「同一の市場条件」が確保されれば以前よりも利益を得られる「新たな生産・販売システム」づくりを進めてきた。さらに定置網観光の受入態勢の協業化,海洋レジャー事業のPR活動拡大によって漁業外からの収入増加にも期待が寄せられた。 しかし,上記で見てきた通り,漁家経営を改善するような収入には結びついていない。その最大の原因は水揚量の大幅減少にある。2003年以降,台風の相次ぐ接近による操業日数の減少,資源悪化などの影響などによって新たなシステムによって販売する魚介類が大幅減少したのである。さらに,期待された新設定置網の水揚金額も年間230万円程度であり,減価償却費や人件費,燃油代などを差し引くと利益はほとんど残らない。また,海洋レジャー事業については定置網の共同購入やPR活動を進めたものの利用客数は伸び悩んでおり水揚金額の減少を補填できる規模にはない。協業体結成時に想定しなかったほどの水揚量の大幅減少,海洋レジャー事業の伸び悩みによって漁家経営の改善は進んでいないのが現状である。

3)今後の検討課題
 このように,期待されたような漁家経営の改善は見られない。それどころか水揚量減少と借入金発生によって漁家経営は一層厳しさを増している。こうしたことから今一度,漁家経営のあり方の検討が求められる。方向性としては3つ考えられる。 第1は,漁業操業の完全な協業化である。現在,大型定置網2グループ(経営者2名,雇用労働力6名,漁船3隻,4ヵ統)の生産体制で約1,400万円の水揚金額を得ているが,水揚金額の60%から67%が人件費となっている。A氏とB氏が操業過程を全て協業化して雇用労働力の削減と減船をすすめ,現状の水揚金額がさらに低下しても耐えうることの出来る低コスト経営の確立を目指すことも現状を打開するひとつの方法となろう。その際,4ヵ統の定置網を維持・管理できるのか,出来ないとすればどの定置網を残すことが収入につながるのか,操業のあり方(毎日水揚,隔日水揚など),利益配分の方法などが検討課題となろう。 第2は,他の漁業種類との兼業である。現在,宜野座村漁協ではウミブドウ養殖の生産 ・販売施設の整備を進めている。大型定置網の操業は午前中には終了するため,午後からこうしたウミブドウ養殖などを兼業できないであろうか。 第3は,水揚量の回復に期待して現在の取り組みを進めるという方法である。水揚量が回復すれば,この間の取り組みでつくりあげてきた「新たな生産・販売システム」によって漁家経営の改善が進む可能性もある。