沖縄調査
沖縄県石川・宜野座漁協における中核的漁業者協業体の取組事例とその評価
近畿大学COE博士研究員 鳥居享司
nk_torii@nara.kindai.ac.jp
1.はじめに    2.地域漁業の概要    3.「石川・宜野座定置網協会」の結成の背景と活動目標     4.「協業体」の組織概要
5.協業体での活動内容とその成果    6.当事例の評価    7.事例研究を通じてみた協業体事業の課題


7.事例研究を通じてみた協業体事業の課題
 当事例では,協業体事業を活用することによって,利益を生み出す生産・販売システムが整備されてきた。しかし,水揚量の大幅減少という想定外の事態によって漁家経営の改善は進んでいないうえ,本事業によって発生した約1,000万円の自己負担金の返済が重くのしかかっている。 こうした追加的投資を伴う活動によるリスクを事前にどう捉えていたのだろうか。漁業共同改善計画および各年度の協業体事業実施計画書を見ると,活動内容とそれによって期待される効果のみ記されている。協業体事業の活動資金の50%は自己負担を原則としており,こうした追加的投資を伴う新たな活動が失敗に終わり経営を圧迫することも十分想定されるにもかかわらず漁業共同改善計画や協業体事業実施計画書には新たな活動に伴うリスクの想定・予防・対応に関する記述を求める項目が一切見あたらず,従ってリスク管理に関する記載はない。リスク管理の不十分な事業計画が認定・実行されており,活動が失敗した際には十分なリスク回避行動がとれず,新たな負担が漁業者に発生して経営を圧迫するという構図になっている。 一般の企業活動では自己負担金を伴う事業等を計画する際,期待される効果を算定するだけはなくリスクの想定と予防,回避の回路を設計するのが常識である。こうした点から見ても,協業体事業の計画書の内容,およびそのチェック体制,認定基準にも課題があると指摘せざるを得ないだろう。

写真:石川市漁協の外観

写真:石川市漁協婦人部の直販店

写真:宜野座村漁協の外観

写真:宜野座村漁協の鮮魚直販店


〔付記〕本稿は文部科学省科学研究費(研究代表者・山尾政博「漁村の多面的機能とEcosystem Based Co-management」),および東京水産振興会・調査事業の研究成果の一部である。


(注)
1)石川市漁協の職員が量販店からの注文量に基づいてB氏とA氏への割り当てを決定しているため,石川市漁協に所属するB氏を優先する傾向にある。量販店からの発注量が少ない時,B氏の漁獲物で十分に対応できA氏へ注文が入らないといったケースも見られる。
2) 大漁時に市場出荷すると魚種によっては50円/kgほどの値段になる。量販店と取引したり,蓄養生簀を設置したり,冷凍保存することによって,大漁時でも一定の価格を付けることが可能になった。
3) 那覇市場で売られている石川市や宜野座村の魚介類は漁獲した翌日のものであるが,量販店との直接取引する魚介類は当日漁獲したものであり,漁獲当日の午後には店舗に届けることが可能である。鮮度に大きな差があるため,直接取引に積極的な量販店も見られる。
4) 原則であり200円を下回る場合もある。
5) 凍結保存期間の長い"ヒネモノ"やグルクマは150円/kgで販売している。
6) 具志川漁協,湊川漁協,糸満漁協,伊良部漁協,嘉手納漁協,読谷村漁協など。