沖縄調査
沖縄県石川・宜野座漁協における中核的漁業者協業体の取組事例とその評価
近畿大学COE博士研究員 鳥居享司
nk_torii@nara.kindai.ac.jp
1.はじめに    2.地域漁業の概要    3.「石川・宜野座定置網協会」の結成の背景と活動目標     4.「協業体」の組織概要
5.協業体での活動内容とその成果    6.当事例の評価    7.事例研究を通じてみた協業体事業の課題


4.「協業体」の組織概要

1)組織の機能・役割
 「石川宜野座村定置網協業体」は石川市漁協を所在地としており,先に示した漁業共同改善計画に沿って漁家経営改善に向けた取り組みを行う組織である。組織では定置網協会の組織運営,施設・機器の設置・管理運営,各備品の減価償却費等の蓄積,事業経費の出費および利益配分,定置網漁業や海洋レジャー事業の管理運営,販売・インターネットによる宣伝広告などが決定される。 後述する3グループ10名の漁業者によって構成されており,代表者1名,体験漁業主任者1名,販売主任者1名,経理責任者1名,監査役2名(うち1名は構成員外)を設置している。 なお,協業体の運営費は共同設置した大型定置網からの水揚金の一部を充てる予定であったが,水揚金額が少ないため今のところ運営費は捻出できていない。

2)参加組織の概要
 (1)A定置網グループ(宜野座村):協業体代表者
 A氏は本協業体の代表者であり,沖縄県漁業士会の副会長を務める人物でもある。宜野座村漁協に所属し,大型定置網を専業的に営んでいる。本人名義(第1号)の大型定置網1ヵ統,父親名義(第2号)の大型定置網1ヵ統の計2ヵ統を所有しており,3名の雇用労働力と2隻の漁船(9.2トン,0.7トン)によって操業を行っている。 通常の操業は,朝8時30分に出港する。9時30分頃から網起し,10時30分頃から水揚する。11時30分頃には帰港して選別作業を行う。午後からは網の洗浄や修繕,魚介類の配送などを行う。 水揚作業は週3回(月・水・金曜日)であり,ひと月あたりの海上作業日数は13日程度である。毎週日曜日は休漁,残りの日は陸上にあげた漁網の修繕や洗浄を行う。年間の海上作業日数は台風等の影響で減少傾向にあり,第1号網は135日(2001年)から120日(2003年),第2号網は119日(2001年)から90日(2003年)へ推移している(表4)。 1990年代には水揚量20トン,水揚金額2,000万円前後であったが,2002年以降,大幅に落ち込んでおり,現在の水揚量は約14トン,水揚金額は800万円前後である(図4)。1回あたりの水揚金額を見ると第1号網は8.6万円(2001年)から4.8万円(2003年)へと半減している一方,第2号網は1.4万円(2001年)から2万円(2003年)へと増加しているが,ともに年間操業日数が減少しているため年間水揚金額は減少している。 操業にかかるコストを見ると,その多くを人件費が占める。雇用労働者の給与は固定給と日給を組み合わせて計算しており,乗組員1名あたり約15万円/月である。3名を雇用しているため,年間540万円前後の人件費が必要となる。このほかにも,高騰を続ける燃油代,協業体で共同購入した高圧洗浄機や定置網の自己負担分の借入金返済も加わり,経営は非常に苦しい。 こうした漁労活動に加えて海洋レジャー事業も行っている。テレビで定置網観光の様子を見たことをきっかけに,小学生などを対象にした定置網観光の実施を検討した。定置網操業に使用する漁船を用いれば新たなコストはほとんど発生しないことから定置網観光を開始した。2002年以降,協業体を組織してパンフレット作成,ホームページの開設などPR活動に力を入れているが,年間の受入回数は2回程度,売上金額は10万円前後である。石川市漁協を通じた観光定置網へも対応しており年間の売上金額は40万円前後である。海洋レジャー事業の売上は,A氏の全売上金額の5%程度に相当する。

 (2)B定置網グループ(石川市漁協)
 B氏は石川市漁協に所属している。大型定置網を専業的に営んでおり,3名の雇用労働力,2隻の漁船によって操業を行っている(1隻は故障中)。毎週日曜日を休漁日としている。 通常の操業は,朝7時に出港,7時30分過ぎから網起し,8時30分頃から水揚げ作業を行う。9時40分頃には帰港して選別作業を行い,11時から始まるセリへ出荷する。 水揚金額を見ると,B氏の定置網漁業は石川市漁協の水揚金額約1.4億円の約2割を占める中心的な漁業種類であった。しかし,2002年以降,水揚量の減少が著しく,現在の水揚金額は600万円前後にまで減少している。ただ,石川市漁協の水揚金額も約5,000万円にまで減少しているため,B氏の定置網はその1割強を占める位置づけにある。 操業にかかるコストを見ると,年間300万円〜400万円程度の人件費が必要となる。このほかにも,燃油代,協業体で購入した高圧洗浄機や定置網の自己負担分の借入金返済も加わり,経営は非常に苦しい。 経営が厳しくなるに連れて,即日現金化する業者への販売割合が高まり,漁協への販売金額は400万円未満にまで減少している(図5)。水揚量の半分程度が漁協外へ販売されていると見られている。 また,減少する収入の補填策のひとつとして海洋レジャー事業(定置網観光,船・イカダ釣り)を行っている。海洋レジャー事業の売上金額は年間30万円〜180万円である。海洋レジャー事業の売上は,B氏の全売上金額の5%〜23%に相当する。

 (3) C小型定置網グループ(石川市漁協)
 C氏は石川市漁協に所属している。小型定置網,魚類養殖,刺網,カニカゴなど複数の漁業を行っており,1名の雇用労働力を用いている。 魚類養殖がメインであり,レッドドラム,スギ,タマンなどを対象にしている。年間出荷額はおおよそ2,000万円である。通常は,午前中に魚類養殖,午後の時間のあるときに他の漁業を行うといったスタイルである。 小型定置網漁業の水揚金額は減少傾向にあり,近年の水揚金額は500万円を下回っている。ただし,魚類養殖がメインであり,大型定置網を専業的に営むA氏やB氏ほど危機感はない。 海洋レジャー事業も営んでおり,アンブシ漁(小型定置網),カニカゴ漁の体験を実施している。協業体結成後はホームページでPRしているものの申込件数はわずかであり,経営にインパクトを及ぼすような収入規模ではない。