Study 01 界面とバイオ

(2)エクソソーム

エクソソームとは

エクソソームとは、細胞から分泌される直径30-120nm程度の脂質二重膜に覆われている細胞外小胞である。その内部にはマイクロRNAmiRNA)など細胞の情報が高度に保存されていることから、ガンなどの新たなバイオマーカーとして注目されている。また近年、間葉系幹細胞由来のエクソソームが、抗炎症作用や複合的な免疫制御作用を持つことが明らかとなり、エクソソームそのものを治療薬として利用する研究が活発に行われている。
 
 
エクソソーム回収法の中でも、超遠心機を用いた分離法が最も一般的に利用されている(標準法)。しかしながら、この超遠心分離法は、作業者の習熟度よって精製度や回収率にばらつきがでることが分かっている。
 
 
キーワード:エクソソーム結合ペプチド、リン脂質、精製(大量 or 自動化)

 

多様なエクソソームの利用と課題

エクソソームは疾患の早期診断に利用できる、セルフリーセラピーへの期待。食品化粧品への応用などが期待されていますが、課題としてはどうやって実用規模で分離するかということがあります。すなわち、分析用であれば、多検体分析のための分離技術、またエクソソーム自体を利用するのであれば、数千リットルの大容量の培養液からエクソソームを高い純度で精製するシステムなどが課題であるとされています。

そこで我々は、エクソソームが脂質二重層膜からなることから、脂質二重層膜結合ペプチドを利用することで、損傷の極めて少ない(インタクトな)エクソソームの回収法(精製法)を開発したいと考えた。

エクソソーム結合ペプチドによる精製

エクソソームを回収するために、磁気ビーズに結合ペプチドを提示したものを使うことにした。結合ペプチドとして、膜に親和性のあるmastparanやLL37ペプチド等も試したが、超遠心法と比べて十分な回収率は得られなかった。最終的に8残基のリジンを含むペプチドが有効な親和性ペプチド(EXペプチド)になり得ることを見出した。このEXペプチドを使えば、捉えたエクソソームが、温和な条件(例えば0.5M NaCl)で解離できた。リジンの個数は少なくてもダメで、逆に多いと結合力は増すものの回収する際に解離しにくくなるので、結果的に8残基のリジンが最も使いやすいことがわかった。
 
EXペプチドのメカニズム
ペプチドとリン脂質との結合を評価した結果、ホスファチジルイノシトールが最も高く、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンと続き、ホスファチジルコリンに関しては弱く結合することが分かった。その結合は、リン酸ではほとんど阻害されないが、ポリリン酸で阻害されることから、リン脂質の複数のリン酸基を認識しているのではないかと考えている。
 

エクソソーム精製キットと今後の展開

現在、エクソソーム結合ペプチドを用いたエクソソーム精製キットがHMTバイオメディカル社から販売されている。
 

自動回収装置

プレシジョン・システム・サイエンス社(PSS)では、遺伝子検査などに必要な検体からDNAなどの遺伝子を抽出する工程を、独自のマグトレーション技術により、全自動化する装置を開発、製造販売する事業を展開しているが、EXペプチド磁性ビーズを用いた自動化装置のプロトタイプが出来上がってきている。
 

大量精製用カラム

また、EXペプチドを固定化した粒子をカラムにつめたものを作製している。これは、エクソソーム大量精製用のカラムとして利用できる可能性があるので、共同研究をお願いしたいと考えている。
 
論文
黒田章夫,橋本卓磨,石田丈典、2019年9月号 Vol.37 No.14

 

   

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