Study 01  界面とバイオ

(1)アスベスト

アスベストとは

スベストは繊維状のケイ酸塩鉱物で、蛇紋石系アスベストであるクリソタイル(白石綿)と角閃石系アスベストであるアモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)、その他に角閃石系アスベスト3つの合計6種類存在する。
日本にはアスベストを含む建材が約4000万トンあり、古い建物に取り残されている。アスベストは非常に細い(髪の毛の1/1000)の束として存在し、解体の際に飛散することが懸念されている。
アスベストの検査は複雑で、位相差顕微鏡や最終的には電子顕微鏡とX線による元素分析で同定する。環境問題に関わる目に見えない超微細なアスベスト繊維をどうやって簡単に検出するかは重要な課題である。

キーワード:アスベスト結合タンパク質/ペプチド、蛍光プローブ、蛍光顕微鏡

 

 

アスベスト結合タンパク質

最初にマウスの肺細胞をすりつぶし、そこに含まれるタンパク質とクリソタイルを混合し、クリソタイルを遠心によって沈殿させた。界面活性剤や塩を含む緩衝液で洗浄後、なおもクリソタイルに結合しているタンパク質をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)と質量分析により同定した。いくつかのタンパク質がクリソタイルに結合することがわかった。同時に細菌の細胞内タンパク質にもクリソタイルと強く結合するものがあることが分かった。そのうち一つは大腸菌DksAで、クリソタイル(白石綿)と強く結合することが分かった。また、H-NSは角閃石系アスベスト5種類と結合することが分かった。
H-NSからアスベストに結合する領域を決定し、アスベスト結合ペプチドを得た。その配列のリジン残基が結合に重要な役割を担うことが推定された。限定したペプチドは特異的にアスベストに結合するが、一部他の無機物にも結合することが分かっている。特異性を上げるために、環状ペプチドを使うなどの工夫を現在進めている。
 
論文
Kuroda, A. et al., Biotech. Bioengi. 99, 285 (2008)
Ishida, T. et al.,  PLos ONE. 8(9): e76231 (2013)

アスベストの蛍光検出

 

大気中に浮遊する一本のアスベストをどのようにして検出するかということを考えた。通常フィルターを使って大気を吸引し、アスベストをフィルター上に補足する。それを位相差顕微鏡や電子顕微鏡で観察する。最終的には電子顕微鏡のX線分析でアスベストかどうか判定するが、非常に手間と時間がかかる。そこで、アスベスト結合タンパク質を蛍光物質で修飾することにより、蛍光試薬を作成した。この蛍光試薬を使い、フィルター上のアスベストを染色することで、アスベストを蛍光顕微鏡で検出する方法(蛍光顕微鏡法)を開発した。2017年7月に改訂された『アスベストモニタリングマニュアル第4.1版』(環境省)では、位相差モードで検出された繊維を、蛍光モードでアスベストか否かを判定しながら計測する位相差/蛍光顕微鏡法が、解体現場での漏洩監視のための迅速測定法(公定法)として位置付けられた。蛍光によるアスベスト検査方法は電子顕微鏡を利用する従来の方法に比べて格段に迅速なアスベストの判定が可能な方法となった。
 
論文
環境省アスベストモニタリングマニュアル,第4.1版,2017;環境省
T. Nishimura, et al., Annals of Occupational Hygiene,  60: 1104-1115 (2016)

携帯型蛍光顕微鏡とアスベスト検査

大気捕集フィルターに、蛍光試薬をふりかけると、蛍光顕微鏡下でアスベストが光って見える。蛍光顕微鏡法は元素分析をせずにアスベストを特定できるので非常に簡単な検査が可能になった。しかし、解体現場での検査をさらに普及させる場合、どうしても携帯型で、安価で、頑丈な蛍光顕微鏡の開発が必要であった。そのため、ステージ、対物レンズ、励起光の青色LED、励起フィルター、ダイクロイックミラー、蛍光フィルターを頑丈な箱に入れ込んだ。また、iPadのカメラとモニターを利用した。この携帯型の蛍光顕微鏡は、0.7μmの分解能で解析でき、十分にアスベストを検出することができた。また、アスベストが映し出された画像はiPadの通信機能により、離れた分析室でもリアルタイムで観察することができる。
 
現在、持ち運びが容易なiPad蛍光顕微鏡は現在、解体現場や被災地などでの飛散アスベストの調査に利用されている。また人工知能(AI)の画像解析を用いて、自動でアスベスト繊維を計測する技術の開発を行っている(環境総合推進費)。
 
論文
M. Alexandrov, et al., Environ Monit Assess, 1874166  (2015) 
Kuroda, A. et al.,  Biotechnol. J. 11, 757-767 (2016).

検査キット開発と事業化

実際の大気捕集フィルターについて位相差蛍光顕微鏡法による測定と、電子顕微鏡法による測定を実施して比較した。その結果、両方法による測定結果は非常に高い相関性を示すことが分かった。位相差蛍光顕微鏡法は、2017年7月、解体現場におけるアスベスト漏洩の検査法として、正式に認められた(環境省)。現在シリコンバイオ社から検査キットや携帯型蛍光顕微鏡が販売されている。 
 
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蛍光顕微鏡法の将来性

染色したアスベストを用いて細胞内の挙動を追跡することに成功している。アスベストが取り込まれると、細胞分裂が阻害され、多核の細胞が出現する過程をライブセルイメージングで追うことに成功している。
 
バイオの特異性を利用した無機固体の検査は、蛍光試薬さえ作れれば色々な物質を検出できる。例えば、カーボンナノチューブや 酸化チタンなどのナノ粒子も検査できることが分かって来ている。またこれらの動態の研究にも利用できるだろう。
 
論文
Kuroda, A. et al.,  Biotechnol. J. 11(6): 757-767 (2016).
T. Ishida et al., Genes and Environment, 41, 14-25 (2019)
 

  

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