うじらぼアイチャッチ

ここでは視覚障害のお子さんの指導上の支援事項に関して寄せられたご質問への回答を中心にまとめた内容を掲載しています。ご覧いただいてご意見などありましたらお寄せ頂けると幸いです。また掲載のリクエストも受け付けております。

全般的なこと

液量測定
視覚を用いなくても液量を測る方法について掲載しました。液量を測る方法はいくつかありますが,dipping法,pouring法,シリンダー法は有名な方法です。その中で,下の2つは,pouring法とシリンダー法の例を動画で紹介しています。それぞれ特徴がありますから,目的に応じて使い分けるとよいでしょう。
pouring法による液量の測定の一例
シリンダー法による液量の測定の一例

以下の図はdipping法とpouring法の説明です。例えば,下の写真の計量スプーンを用いて,すりきり一杯液体をすくったり,注いだりすることもできますが,カップの定位置に穴をあける方法の方が,液体がこぼれにくくなります。
dipping method と pouring methodの写真
計量スプーンの写真
syringe methodです。注射器を用いて,中のシリンダーに切欠きを作ったり,筒にピンを刺してシリンダーを止めたり,筒とシリンダーをつないで止めたりして一定量の液量を吸い込むのに用います。切欠きを使うと,一つのシリンジで何パターンかの液量を測定することができます。
syringe methodの写真
図の出典:foundaitons of education, second edition, volume II, instructional strategies for teaching children and youths with visual impairments. koeng and holbrook, Editors, AFB press, USA.
通常学級の中でのロービジョンの児童生徒との関わり
 現職に就き2年目になりました。地域の小学校や中学校、養護学校などから声がかかることが徐々に増えてきています。それらの学校に通う視覚に障害のある子どもさんについての学習支援に関する相談や先生方への研修が中心です。
 7月にある小学校にお邪魔して授業の様子を拝見させていただいたことがありました。ここは弱視学級がなく通常の学級に弱視のお子さんが在籍していました。ここの担任のT先生の取り組みがとても気になったので紹介したいと思います。T先生は弱視のお子さんを受け持つのは初めてで、この4月に赴任されたばかりということでした。
1.板書の確認方法
 私たちが先生方にお願いするのは、「板書をするときは黙ってではなく、声に出しながら行ってください。」ということです。しかし、T先生は板書した後に3,4人の子ども一人ずつに板書を声に出して読ませる時間を取っていました。先生が板書を読むこともお勧めですが、先生にとって気になる子どもに、一人ずつ板書をくり返し読ませることは、板書内容の伝わり具合を確認することにもなりますし、弱視の子どもにとっては何度か確認できるチャンスを得ることにもなります。
2.板書の確認
 ちょうど算数は数直線の単元でした。数直線は板書すると細かくて、弱視の子どもにとっては確認しにくいものの一つと考えられます。こんなとき、別個にプリントを準備したり、板書した内容を弱視の子どもに見に来させたりすることはよく行われることではないでしょうか。もちろんレンズを使えればそれに越したことはありません。
T先生が行っていた板書の確認方法は班活動としての板書の確認でした。板書が終わると、1班ずつ前に出させて、板書を確認させていました。こうすると、弱視の子どもにとっては特別扱いされているという心理的抵抗が無くなるし、その中には前に出て板書を間近で確認できる機会を与えられて救われる子どもが含まれているのではないかと思いました。
3.お互いのノートの確認
 このクラスは2名一組が活動の最小単位のようでした。板書のノートやその他の作業を先に終えた子どもは、作業中の子どもを助けたり、お互いにきちんとできているか確認したり時には教え合ったりする時間を取っていました。先生が弱視の子どもの作業を手伝ったり助言を与えるケースはよく見かけます。
 このように自分のパートナーと関わり、相互作用する時間を取ることで、お互いの長所や短所などの特徴を理解することができ、それはもちろん自分を理解することの源泉にもなり、相手や、相手に関わる自分に応じた関わり方を発想できるようになり(それが、思いやりの気持ちの芽生えとなり)、クラスとしての連帯感が生まれるのではないかと感じました。こんな環境の中で自然に共生の気持ちが育っていくのかなと思いました。

 20人とか30人とか、通常のクラスの中に特別な支援を必要とする子どもがいることが、教師の負担になったり授業の妨げになったり、クラス経営を困難にしたりといった負の面について感じる方は多いでしょう。
 しかし、特別な支援を必要とする子どもが心地良い授業やクラスは、きっと他のクラスメートにとっても心地よいのだと思われます。
 「そうはいっても、教師は大変だよ。」といった声が聞こえてきそうですが、T先生のように、支援をクラスメートの活動の中に組み込むことでそれを実現することは優れた特別支援や共生の一つの形ではないかと考えさせられました。
ある盲学校の電子板書の実践
ある盲学校の実践です。この盲学校は情報通信機器の授業や校務への活用に力を入れている学校です。今回は電子板書の授業をいくつか見せて頂きました。その中の一場面を写真で紹介します。教師用PCでは動画やwebコンテンツ、あるいは文字の入力を行い、液晶タブレットは手書きの文字や図の入力を行い、デジタルカメラでは実物の映像の取り込みを行っていました。それを分配機を通して生徒用モニタに映し出すという仕組みです。生徒達はそれぞれの机に設置されたモニタを見て授業を受けていました。この学校にはこういったシステムが数教室にありました。国語、社会、理科、理療科を見せてもらいましたが、どの授業でもその目的を達成するために、または障害からもたらされる学習のしづらさを補うために、見事に情報通信機器が活用されていました。(2007/10/18)
電子板書の様子 電子板書の様子
板書に関する、本研究室での実践
板書システムの開発とその活用の様子(2003-2004)
電子教科書の実践の紹介ページ(2001-2003
mimioを用いた板書の実践ページ(2002)
弱視児の教室環境整備のヒント
環境面からです。下の写真は教室の入口の様子です。入口には段差があるので、段の端の縁に白いテープを貼って床とのコントラストを高めることで、段差の存在を強調しています。同時に、入口の廊下側に玄関マットの滑りにくいものを敷いていて、視覚と触覚で教室の入口が分かりやすくなっています。
教室の様子の写真
教室の後方から前方を撮影した様子です。前方に教卓や机が配置され、後方は広いスペースでの学習が可能になっています。児童用机は全て斜面机で、電気スタンドが設置されています。電気スタンドの手前には鉛筆やレンズなどを収める深めのトレーが取り付けられています。一番右側の机にはCCTVが設置されていて、黒板を写すためのビデオカメラもそれにつなぎ込まれていました。この電気スタンド、現在は収納された状態です。かなりコンパクトになるので、私は思わず「へぇ~、これよくてきてますねぇ。」と口をついて出てしまいました。
教室の様子の写真
教壇の上に貼ってあったテープです。中央の黒は黒板の中心、その左右の黄色は黒板の端より少し内側に貼ってあります。これにより、児童は中心や端を意識して立つことができ、発表や説明ができるそうです。
教室の様子の写真
これが、CCTVを活用した机の拡大写真です。CCTVを使うために椅子を動かすので、移動しやすくするためと、騒音を低減するための理由で椅子の脚には使用済みのテニスボールが突き刺してありました。音が出ない方法として、これが注目を浴びているようですね。
教室の様子の写真
これが、CCTVを利用している様子です。この児童の場合、軽いプリント類を見るときはXYテーブルを用いずに、厚い本などを見るときはXYテーブルを用いるようです。軽いプリントや本だと上手に水平に動かし、また改行もスムーズに行えていました。用途に応じてXYテーブルを使い分けているようですね。
教室の様子の写真
斜面机を利用している様子です。このスタンドはコンパクトに収納できるし、スイッチの場所も手の届きやすいところでちょうど良い、優れものです。また手前のトレーは両面テープで取り付けられているそうです。児童は、書いたり読んだりするときには斜面机を立てて、紙片などを操作して考えるときには水平にしてと、斜面机を適切に操作して授業に参加していました。また、斜面机の上のクリップは用紙が下がらないようにするための留め具です。特に視力の関係などで傾斜を強く付ける場合はクリップでプリント類を挟むとプリントがうなだれなくなります。また、彼らは鉛筆を使っていました。芯の先の太さが変化しにくい0.7mmなどの太めのシャープペンシルを利用することも推奨されますが、鉛筆を器用にくるくると回転させながら自分の好みの太さで書ける芯の面を探して書いていました。私もできることなら(様々な条件が折り合うならば)こういう鉛筆の使い方をまずは教えられたらいいなぁと思う者の一人です。鉛筆は、軽い、壊れない、芯の太さを選んで書ける、芯が急に無くならない#1などシャープペンシルに比べ良いところもたくさんあります。六角形の形をうまく捉えて、そんな鉛筆の長所を引き出す筆記の技術をまずは指導したいですね。
#1 これを少し詳細に説明しますと、入れ忘れとか買い忘れがあると、シャープペンシル、特に0.7mmなどの特殊なものの芯は急には揃わないこともあるでしょう。しかし、鉛筆は常に残りの芯の量を確認しながら書くことができます。そういった理由で、こういう表現をしてみました。
教室の様子の写真
チョークですが、最近は青、オレンジ、緑も高輝度のものが発売されていることを知りました。ただし、オレンジ・黄色・緑は輝度が似ているので、それらの弁別を要する利用は難しいかなと思いました。最近は蛍光チョークというのがあるんですね。
教室の様子の写真
ボールも何種類か見せて頂きました。市販でもこんなにたくさんの視認性の高いボールがあるんですね。
教室の様子の写真
斜面机を水平にしてのワークです。3桁同士の足し算の内容でした。それを考える過程です。白い数字のカードを操作するために黒いセルのマトリクスが用意されていました。これだと視認性は抜群に良いですね。実は、このプリントはじめは横線が描き込まれていませんでした。児童がそれを指摘すると、担任の先生は、「ごめん、ごめん」といながら、手早く、定規と修正テープをもってきて、3人のプリントに横線を引いていきました。なんと素晴らしい対応だろうと心の中でうなっていました。
教室の様子の写真
これは、板書の工夫。板書は基本的に通常の板書と大きく変わりませんでした。つまり児童は単眼鏡や、CCTVにつないだカメラを通して見ていました。先生は、1年生のころは板書内容を文節で区切ってそれを見て覚えて書くように指導したそうです。それが今や長い文を一度見て、覚えて、それで書き写していました。子ども達はすばらしい力を身につけましたね。何度も黒板を単眼鏡等で見て、ノートに書き込む作業を繰り返すとと効率が悪いので、そのようなスキルを身につけさせようと考えられたようです。ところで、この矢印磁石です。今説明しているところの1行目の左端に貼り付けていました。これにより単眼鏡でのスポッティングを間違いなくさせることができますし、何度か見ようとするときのスポッティングの目安や、板書が始まった時に時間差があった場合などの目安になりますね。矢印は色や大きさなど何種類か準備されて、近くの別の黒板にスタンバイされていました。
教室の様子の写真
これはA1用紙を4つつないで-だからA-1とでもいうのでしょうか(笑)-作った校区や福岡市の地図です。掛け図のようにして単眼鏡で見ることも活動内容によっては良いでしょうが、これだと、地図の上に存分に眼を近付けて確認することができますし、水性ペンで書き込んだり、行政区域や道路や線路などをたどることもできます。これは良い教材だなぁと思いました。地図の上には透明のビニールが敷いてあり、児童曰く、土足厳禁だそうです。これらの地図は技術をもった方が作って下さったのだそうです。
教室の様子の写真
弱視児のパソコン指導のヒント
教室にあったPCです。キーボードのキートップには拡大、反転印刷されたシールが貼り付けてありました。同じことを実施しようとすると、例えば、弱視者や高齢者にも見やすいキーボードを利用できるでしょう。このPDFをダウンロードしてA4版のラベルシートに印刷して切り抜いて使うことができます。その場合、キーボードに直接貼付してもよいですが、もし、剥がして使う機会もあるということであれば、キーボードシートなどの上に貼付するのもよいと思います。また、例えば、AIUEOなどの特定のシールにだけ蛍光ペンで印を付けるなどという応用パターンも考えられますね。
教室の様子の写真
ロービジョンの児童生徒にスクリーン上の文字を見せるのはどうすべきか
近距離での読書をする場合の拡大鏡の拡大率や文字のサイズを査定するための材料としてMNREAD-Jチャートを用いることがあります。そこで得られるデータの1つに臨界文字サイズ(CPS)という値があります。これは最大読書速度を保つことのできる最小の文字サイズを指します。氏間ら(2007)により、CPSを用いて遠方に投影される文字のサイズを査定することが可能であることが明らかにされました。ただし、眼球振盪などロービジョンには様々な見え方があるため、彼らの意見に十分に注意を払う必要があることも指摘しています。
(氏間和仁・島田博祐・小田浩一, 大型電子化提示教材で使用するロービジョンのに適した文字サイズの規定法-読書評価チャートの応用-, 特殊教育学研究, 第45巻, 第1号, 1頁~12頁, 2007)
ノート指導について
ノートは1単位時間の授業での思考過程を概観するのに適した道具です。また、それが書き言葉で残されていることが大切なところです。しかし、そのノートも検索しづらい、読みづらいというのでは十分にノートの機能を果たせないでしょう。ノートは日々の整理が必要で、それには教師のかかわりが重要になります。鳥山由子先生の文献を引用しますと、ノートの準備と使い方の約束、ノートの取り方の指導、教科特有の記号の指導の3つの視点で考えることができます。
(1) ノートの準備と使い方の約束:年度初めは新しい教科専用のノートの準備(分割履修などで引き続きの教科・科目の場合はこの限りでない)、理科の分野などは分野別に準備するとよいでしょう。弱視の用紙と鉛筆の工夫が必要と思われます.用紙は市販のノートの罫線2つ分で書くとか、ロービジョン用のノートを準備することが考えられます。ロービジョン用のノートは罫線の幅や罫線の太さが様々に設定されているものがあります。書く道具は、鉛筆でなく、書いても線の太さが変わらないシャープペンシルの利用がよいでしょう。芯径0.5mmではなく0.7mmとか0.9mmなど見え方に応じたものを利用するとよいでしょう。濃さについてもBや2Bなど見やすいものを選ぶとよいでしょう。点字使用者の場合は教科専用のファイルを準備するとよいでしょう。挟むだけのものではなく、2穴のファイルにすると見開きにできて読みやすいでしょう。以前、市販の厚手のルーズリーフに書いて26穴のファイルに綴じている人を目にしたことがあります。ファイルには背表紙や表表紙に教科・科目名や氏名、そして分冊になる場合はノートの通し番号を書くようにするとよいでしょう。1単位時間ごとに墨字使用者には新しい頁を、点字使用者には新しい用紙を用いるようにし、頁の先頭に日付や授業のタイトルを書くようにすると検索性が向上します。プラスティック製の点字盤だと点字板の挟む部分の左右に文字が書けるようになっているので、そこに日付を書くと検索しやすいでしょう。<
(2) ノートの取り方の指導:鳥山先生はノートの取り方の指導として次の4点を挙げています。[1]内容を理解し、頭の中でまとめてから書く、[2]計算問題なども、解答の筋道の見通しを持って書く、[3]必要なことを簡単に書く(箇条書き指導も含む)、[4]正しく丁寧に書き、書いたら見直す。「ノートに書く前には、書く内容の全体像を言葉で示し、途中で頁替えがあるかどうかの見通しを持たせる。次に、段階ごとに、内容を区切って言葉で示しながら書かせる。書き終わったら、自分で見直しをさせる。教師が点検し、できればその場で修正する。」このくり返しで見通しを持ってノートを取る技術が身につくとしています。ヴィゴツキーは書き言葉は、自覚し随意的に得た科学的概念を最大に広げて、構文などを意識して綴る。この自覚し、随意的に操作するところに困難さがあるとしています。この過程をくり返し指導することは、授業で身につけた科学的概念を随意的に操作する場を与えられることであり、彼らの中での概念化の様子を確認する場としても利用することができます。
(3) 教科特有の記号の指導:点字の指導は自立活動や国語のみの授業で完結するわけではありません。数学では数式、理科では理科記号、音楽では楽譜、英語ではアルファベットや略字等、それぞれの教科で指導要領に沿った指導が行われる必要があります。そのためには指導者は点字のことを指導できる力量を身につけておく必要があります。同時に答案の書き方や見出し番号の書き方や見出しのマス空け、分かち書きや切れ続き、カッコ類等のその他の記号などについてもその場その場で適宜指導する必要があります。
「視覚障害教育ブックレット, vol.4, 20-21」を一部引用し加筆しています。

国語的内容について

弱視児の漢字指導
弱視児の見え方に応じた漢字教材の作成や、漢字の筆順を自分のペースで進んだり戻ったりして学ぶことのできる学習ソフトを氏間研究室で提供しています。
漢字筆順・字形学習ソフト(オンライン版) 漢字学習ソフトの画像
関連文献
大財誠・氏間和仁 (2011) 漢字学習ソフト「かけるクン」を活用した弱視児への漢字指導. 福岡教育大学附属特別支援教育センター研究紀要, 第3号, 99-104, 2011(H23)年3月PDF)
氏間和仁, ロービジョンのHTML教材利用に関する研究, 障害児教育論文集, 26, 1-21, 2001
盲児の概念獲得を考える
盲児に概念獲得させる場合、「核になる体験」を重視することがいわれることがあります。この「核になる体験」とはなんでしょうか。おそらく、心理学でいわれる「プロトタイプ(prototype)」のことを指すのではないかと考えられます。プロトタイプとは、「カテゴリーの最も中心(典型)的成員(例:鳥カテゴリーにおけるスズメ),またはカテゴリー事例の特徴情報を抽象化し,統合した単一表象。」(心理学辞典)と定義されることがあります。プロトタイプと対置する言葉として周辺事例というのがあります。ここで鳥を考えてみると、プロトタイプは「すずめ」などであり、周辺事例は「ペンギン」などになると思われます。このときに、鳥の他のカテゴリー事例と最も多くの共有特徴をもつのが「すずめ」ということになるのでしょう。したがって、盲児に「核になる体験」をさせることを考える場合には、概念の事例の中でもその概念の事例が持っている共通特性(属性)を最も多く持っている事例を検討するのが一つの目安になるのではないかと考えられます。
概念はそれを特徴付ける属性により定義されるという考え方があります。この属性は、感覚器で知覚できる属性(知覚的属性)と、機能などによる属性(機能的属性)に分けることがあります。例えば、太鼓であれば「丸い、叩くと音がなる」といった知覚的属性と、「演奏する道具」といった機能的属性があげられます。これらは厳密に分けられないこともあります。発達的に考えると、小学校を入学するまでのころは知覚的属性により概念化することが優位です。小学校以降、発達するにしたがって機能的属性により概念化することが優位になることを指摘した人がいます。感覚器からの入力の情報量は視覚が大半を占めることがいわれることがありますから、、知覚的属性による概念化が優位な時期の概念化に与える視覚の貢献は大きいことが想定されます。
このことは、盲児に対する概念獲得に対して2つの示唆を与えると思います。1つ目は知覚的属性が優位な時期に視覚が活用できないことの重大性を意識する点と、視覚が活用できない場合に知覚的属性を系統的に提供することを意識する点です。盲児が外界を捉える感覚として重要なものに聴覚や触覚等があります。聴覚は遠感覚であり、受動的に刺激を受けることができますが、触覚は能動的に触らないと刺激を受け取ることができません。したがって、触覚によって知覚的属性を入力する場合は、手指を主体的に用いることが原則になるでしょう。そのときに大人は言葉で補足したり、部位に応じた手指の動かし方、手指を当てる角度、強さ、手指そのものの形などを助言することによって適切に触察できるように導くことが重要でしょう。聴覚は遠感覚で、遠くの状況の変化を捉えるのに有効であります。しかし、聴覚的属性と概念が結びついていることが前提です。そうでないと、音は盲児にとっては不快感を生ずる感覚になりかねません。音は自分で大きさや質をコントロールできないものが多く、音源を同定できるものや、音源を触知できるものには限界があるといったことがその原因であることを指摘している人もいます。したがって、音を外界の把握に有効に活用するには、聴覚属性と概念を結びつけることことが前提であることを踏まえた、概念獲得にする必要があると思われます。
このように、「核になる体験」とは、プロトタイプについて、その属性を適切に獲得させるような体験というふうに解釈することができるでしょう。その際は、子どもの状況を適切に捉えて、知覚的属性や機能的属性を適切に獲得できるようにする必要がありそうです。また、触覚や聴覚等の長所や短所を見極めて、適切に属性の獲得ができる環境作りやスキルの習得を周囲の大人が促す必要があると考えられます。
この一つの手だてとして、以下の読み聞かせの支援が参考になると考えられます。
絵本の読み聞かせについて
ある、書物(FOUNDATIONS OF EDUCATION Second Edition Volume II)にあった、読み聞かせの支援について紹介します。
幼児期
  • 居心地のよい場所で読みましょう。
  • 子どもに安心をもたらすために、詩歌(韻文)を読んだり、歌ったりしましょう。
  • 物語の言葉が刺激的になるように劇的な手段としてあなたの声を用いよう。
  • あなたが楽しめる範囲で、なんでも読もう。
  • 子どもが何らかの視覚を活用できるならば、単純で、明るいイラストの本を選ぼう。必要であるならばコントラストをつけるために濃いフェルトペンでイラストを縁取ろう。
乳児期
  • 本の中の絵の場所を感じるためのものを子どもに与えよう。
  • 物語を読む前に、物語とつながりのあるものを探索するために、ストーリーボックスの中のものを収集しよう。
  • ページを補強するための頑丈な厚紙を用いて、各ページにものの付いた、あなた独自の本を製作しよう。
  • 本を手に触れさせるための豊富な機会を子どもに与えよう。
  • 触れたり、見たりできるアイテムのある市販の本を探して用いよう。
  • 子どもがそれらを利用できるための場所に本を保管しよう。
  • 物語の中に子どもを巻き込み、子ども達に言葉や歌を繰り返すようにけしかけ、子どもに簡単な質問をしよう。
歩き始めの幼児の年齢
  • 本の中の絵の場所を感じるためのものを子どもに与えよう。
  • 物語を読む前に、物語とつながりのあるものを探索するために、ストーリーボックスの中のものを収集しよう。
  • ページを補強するための頑丈な厚紙を用いて、各ページにものの付いた、あなた独自の本を製作しよう。
  • 本を手に触れさせるための豊富な機会を子どもに与えよう。
  • 触れたり、見たりできるアイテムのある市販の本を探して用いよう。
  • 子どもがそれらを利用できるための場所に本を保管しよう。
  • 物語の中に子どもを巻き込み、子ども達に言葉や歌を繰り返すようにけしかけ、子どもに簡単な質問をしよう。
幼稚園前
  • 予測できる物語を読もう。
  • 本のカバーに触知できるシンボルを付けよう。
  • 活字や点字の中に触知できるイラストがある本を用いよう。
  • 自然に子どもが点字に興味を持てるようにしよう。
  • あなたが活字を用いていることを子どもが知るようにしよう。
就学前
  • 地域の図書館にある幼稚園の読書プログラム(story-hour program)に子どもを登録しよう。
  • それらを子どもに読む前に、それらが挿絵に頼っているかどうかについて、本を再検討しよう。
  • 本の中で現れる概念が子どもにとって知られているものかどうか熟慮しよう。もしもそうでなければ、それらと子どもが知っていることを連携することで子どもが概念を学習することを助けよう。その時、本は子どもの学習の幅を広げ始めよう。
  • APHで印刷されているような、浮き上がった線で描かれた触知できる絵本や本を用いよう。
  • 点字で印刷された本を用いよう。
色の指導について
生まれつき色を視覚で捉えることができない方と、色を視覚で捉えている方との間で共通の色の概念を持つことはできません。しかし、色の視覚表象が獲得できない先天盲のお子さんの場合でも色の指導は必要であると考えています。その際、色と関係している事象を対応させていくことが考えられます。例えば、赤だとイチゴ、リンゴの皮といったような具体物や、「炎は赤くて熱い」とか「赤は止まれ」「テールランプの赤」といった注意を促す色、のような機能的な面でも対応させることが大切だと考えます。また、色の数ですが、教科書に出てくる色というのが1つの目安ではないかと思われます。従って、理療科などで鮮紅色、深紅色、淡紅色などと出てきた場合はそれぞれについて言葉で説明する必要があると思われます。もちろん弱視の生徒に対してはその色を実際に見せることが大切です。
抽象的な言葉の指導について
点字の指導について
  • 十数年前に盲学校を退職された先生からお電話をいただきました。私の恩師でもある先生です。その中で最近、その先生の自宅に通ってきて点字楽譜などを習っているお子さんの話をうかがいました。そのお子さんはピアノなどを習っているそうですが、小学1年の後半から点字楽譜を習うためにその先生にお世話になっているようです。それで点字楽譜を週に1度のペースで指導し始めたそうなのですが、なんと3回目の指導が終わった頃、学校では点字の読書速度が向上したのだそうです。点字の読書速度を向上するためには他動スライディング法をはじめいくつかの方法が提案されていますが、この点字楽譜指導というのも一つの指導法として有望だなと感じました。点字楽譜での指導が点字触読に及ぼす良い点として、その先生が挙げたらしたことは、
    • 楽譜は音楽に合わせて読み進めめる必要がある。
    • ピアノ楽譜を読む際、右手の楽譜を読むときは左手で、左手の楽譜を読むときは右手で読む必要がある。
    といったことでした。さらに私が思うに、●●指導法といったように人工的に作られた学習環境ではなく、点字楽譜を読むことを目的にしており、目的的に点字読みの学習環境を設定できたり、仮名文字中心ではなく、様々なパターンの記号を読み分けたりすることも点字触読能力の向上に貢献するのではないかと思いました。特に目的的な指導法の重要性は自立活動ではよくいわれることですよね。うーん、これは「点字楽譜指導が日本語点字の読書速度に及ぼす影響」なんて研究に発展できるのでは?(2009/04/24)
  • 全盲のお子さんへの漢字の指導について
    弱視のお子さんへの漢字の指導について

    理科の分野について

    天体の指導について
    全盲の状態では天体やその動きを直接経験により属性を捉え、概念化することは不可能です。したがってノーモン法を用い、感光器などで太陽の方角や高さを調べるなどして天体の動きを捉えることが可能です。
    (観察と実験の指導, 文部省, 昭和61年)

    図工・美術

    紙版画の指導事例
    紙版画というのは、厚紙を切って重ねてその上にインクを載せて版画にするのだそうです。それを作る過程は通常白い厚紙でパーツを作成して貼り重ねていくのだそうです。その場合、当然白い顔に白い目とか鼻を載せることになるので視認性は悪いことが想像できます。そこで図工担当の先生が、色厚紙でやってはどうかという提案をしてくださったそうです。それが抜群に良かったようです。右が白い厚紙での紙版画の版下、左が色画用紙を使っての紙版画の版下ですが、一目瞭然、左の方が視認性がいいですよね。また、こういうことを記録している先生もすごい。
    教室の様子の写真