うじらぼアイチャッチ

iPadを視覚障害教育で教材・教具として活用する方法

ここで利用している2台のiPad2とそのアクセサリーは、科学研究費補助金(基盤(C))「弱視者等の読書評価と教材表示支援システムの開発と評価」(課題番号:23531302)によるものです。

ここで紹介している内容は,特に視覚障害教育において,iPadを教材や教具として活用する方法です。

iPadを教材教具とする際の考え方

(2013年3月15日掲載,2015年8月3日最終更新)

【魅力的な道具の登場】iPad, iPod touch等,とても魅力的でアクセシブルな機器が登場してきました。しかし,これらの機器を適切に利用してこそ,その実力を引き出すことができます。

【冷やすために電子レンジを選択しない】どんな道具でも,目的に即して選択しないと道具の実力は引き出せません。アイスを冷やしたいという目的で電子レンジを購入してきて,アイスを電子レンジに入れて,スイッチを押して,冷えないといって,「電子レンジは,やっぱりつかいものにならないなぁ」といったような事例があった場合,多くの人は「それは,ものを冷やすのに電子レンジを選ぶ行為が不適切だろう。」と考えるでしょう。iPad等のiDevicesもそんな事態にならないように,目的を見据えた道具えらびが必要でしょう。

【盲も弱視も使えないといけないの?】視覚障害特別支援学校には,障害の程度で,通常の文字を常用するロービジョン(弱視)と,点字を常用する盲の状態の児童生徒が在籍している。iPad等を紹介した際,「これは,盲の子どもも使えるのですか? 盲の子供も使えないのだったら,うちではつかえないです。」とか,「盲の子どもも,弱視のこどもも,平等に使えない装置なんて平等ではないのでは?」なんて話を聞くことがある。果たして,この問いかけは,どれほど合理的なのでしょうか? 具体的な話で考えると,それではなぜ「パーキンスブレイラー」「単眼鏡」「レイズライター」「拡大読書器」は,大丈夫なのでしょうか。これまでも,盲の児童生徒のための教材・教具,ロービジョンの児童生徒のための教材・教具は,それぞれの特性に応じて開発され,導入されてきました。なぜ,iPadは,そのように受け入れられないのでしょうか?

【状態に応じた機器を使おう!】点字をバリバリ使う,物理的なキーボードでバリバリ入力するといったことが目的にあるのであれば,iPadを選択することは適当ではないでしょう。Braille memo等,あるいはPCを使うほうが適しています。カメラを使って拡大してみる,教科書等の書籍データを拡大してみる,記録した写真データを加工してノートを作るといった視覚ベースの学習の際,視覚補助具として利用する場合には,iPad等が向いているでしょう。VoiceOverを使って,色を確認する,お札を確認する,GPSを使って位置を調べる,DAISYを聞く,ちょとしたメールを送受信する,ブラウジングする,といったことを一台で済ませようとするとiPhoneやiPod touch(GPSについては外部のものを利用)を選択するのが適切でしょう。このように,目的に応じて道具は選ばれるべきだと思います。すでに,点字使用者には,点字ベースでの優れた携帯端末が製品化されています。そういった機器を選択肢に入れるべきです。

【目指せ,BYOD!】最終的に到達するべきところは,BYOD(Bring Your Own Device)です。このような携帯端末は,借り物ではいつまでたっても,その能力の一部しか利用できません。メールを送受信したり,スケジュールを管理したり,リマインダーを利用したり,自分のIDで,クラウドサービスやSNSを利用してこそ,その実力を引き出すことができ,魅力を感じることができます。在学中に,そういった本来の使い方を倫理も含めて学習することが求められていると思います。自転車の乗り方を机上でいくら説明しても自転車を上手に乗れるようにはなりません。ICT機器だってそうです。実際に日々使う機会を設けないと使い方は上手くなりません。それが,将来を生きる子どもたちを育てる学校教育の一つの姿だと思います。現在は,ネット接続することが困難とか,外部の機器はネット接続できないといったルールがありますが,このルールは,そういった情報教育を促進することはありません。ぜひ,そういった将来像を見据えて,今できることから,進めて生きたいですね。第23回視覚障害リハビリテーション大会でのシンポジウムの意見の中に「お金がないは,やる気がないの裏返し」という言葉がありました。ある意味,それは当たっていると思います。お金がないことが原因ならば,お金を持ってくる努力をすればいいだけです。一番さけたいのは,意欲がないことです。こればかりはどうしようもありません。常に子どもたち,保護者,社会情勢に関心を持ち続けたいと思っているところです。

【まず,触ってから,考えよう】「タブレットは,私の授業では使いません。」とか,「タブレットがなければできないような授業はいかがなものか。」といったことに類した意見を時々お聞きします。以前よりは頻度は小さくなりましたが。タブレットも所詮は道具です。されど道具です。世の中にリモコンテレビやリモコン蛍光灯が出た時,「テレビを,わざわざリモコンで変える必要があるのか。」「そこまでリモコンにしたら,人はぐうたらになってしまう。」といった意見を耳にしたものです。自転車に乗れない子供は「自転車になんか乗れなくたって,走っていけばどこでも行けるもん。自転車なんか乗ってたら体力が落ちるもん。」などというかもしれません。しかし,頑張って乗る練習をして,乗れるようになった子供は,自分がそんなことを言っていたことなんて忘れてしまうでしょう。タブレットも同じです。まずは使ってみてください。その上で使えるかどうか,使い所がどこかを考えた方が建設的だと思います。どの業界だって学生時代に習った道具の使い方だけでやっていけるところはないでしょう。日進月歩の開発の中でよりよいものを探求し続ける姿勢は職業人として必要なことだし,教師を選べない子供への,それが誠実な態度であると思います。まずは使いましょう。その上で,様々な思考を巡らせましょう。そして,ぜひそんな使い込んでいる先生をあたたかく見守りましょう。道具の限界を知るには一度や二度は限界を超えないといけません。「そんなことまでタブレットでやらなくても。」ということを実際にやってみないと限界を理解することはできません。このどっぷり期間が道具の適用範囲を適切に理解するのには重要です。ぜひ,そんな先生をあたたかく見守りましょう。そして,どっぷり浸かっている先生は,そのどっぷり期間を3ヶ月から半年で切り上げられるようにしましょう。半年以上のどっぷり期間は長すぎます。子供はいい迷惑ですから。子供たちが,将来,生きる社会は,今の社会ではなく,私たちが想像もつかない社会なのだから。

【生活に役立つ活用という視点】 視覚障害教育の授業では,光の強弱を音の高低で教えてくれる感光器,色を教えてくれるカラーエイド,触ってわかる方位磁石などさまざまな道具を用いられます。それはとても効果をあげてきました。その時々の最新の技術が取り込まれてきたことが教育の質を上げてきたという経緯があります。しかし,それらの機器は果たして彼らの生活をどれほど豊かにしているのでしょうか?感光器は便利ですが,それを何人の在校生が購入し普段の生活で活用しているでしょうか?触れる方位磁石は?カラーエイドは?・・・・・? それでは,視覚障害教育としては十分と言えないように思います。では,それを全て購入するとどうでしょうか? 感光器は5万円強,カラーエイドも同じくらい,と積み上げてくると,軽く10万円を超えます。そこで,今はiPod touchです。iPod touchであれば,感光器,カラーエイド,喋るコンパス,お札識別,文字読み上げ(OCR),などなど一揃えアプリを買っても,1万円に届きません。これならば個人個人が手にするのに実用レベルでしょう。盲学校の先生から「色の指導が難しい」「空間概念が育ちにくい」と認定講習などの際によく伺います。視覚障害児の場合,方角や色は日々接触しない刺激ですから,そりゃ育たないでしょう。それを授業で取り扱っても,知識としてはのこるでしょうが,なかなか身につくまではいかないでしょう。だったら,上記のiPod touchをもたせてみてはどうでしょうか? 色を知りたいと思うと,ColoSayを起動するでしょう。方角を知りたいと思うとコンパスを起動するでしょう。文字を読もうと思うとiよむべえを起動するでしょう。こんな環境を学校で作ることが重要ではないでしょうか?今は,それができる時代です!


目次